18歳選挙権は本当に憲法違反じゃない?

閲覧数が多いので、最後に追記をしました。

投票日が7月10日に決まった参議院選挙から、18歳以上の未成年者にも選挙権が与えられることになりました。いわゆる18歳選挙権です。

その公職選挙法改正案は全会一致で可決されて、テレビも新聞もお祝いムード一色でしたね。

けれども、ひねくれ者の私は気になっていました。

 

これ、憲法違反じゃないの?

 

バカなこと言ってると思うかも知れないし、「あー出た出た。なんでも憲法違反だーって言い出すやつ」とか思う人もいるかも知れません。

でも憲法には、ちゃんと規定があるのです。

 

公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する。

 

そこで、みんなの人気者なのに名前とルックスが原因で体よく政界引退に追い込まれた民主くんにツイッターで聞いてみました。

 

すると民主くんから返信がー

 

未成年者に選挙権を与えることを禁ずるものではないという解釈は法制審の議事録で見た記憶があるのですが、憲法の規定は「成年者による普通選挙を保障する」なので、

 

 

民主くん優しい!民主くん親切!

 

残念ながらツイートのリンクは既にセッション切れになってしまっていますが、

教えてもらった議事録(平成27年5月29日、衆議院の特別委員会)によると

門山委員 ありがとうございます。一応確認なんですけれども、憲法第十五条第三項は、「公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する。」と規定しておりますが、十八歳の未成年者に選挙権を与えることは問題ないのでしょうか。これは弁護士の早田先生に御質問いたします。

 

質問者は門山宏哲議員(自由民主党)です。

これに対して、この会議の参考人で、現在は「明日の自由を守る若手弁護士の会」の事務局長でもある早田由布子弁護士が答えています。

 

早田参考人 憲法では、成年年齢について規定をしているわけではございません。この憲法十五条の規定を踏まえて、公職選挙法は二十歳を成年と定めるという扱いになっておりますので、公職選挙法において十八歳を成年とするということによって、その整合性が図られます。
以上です。

 

憲法の当該条規にある「成年」の年齢は公職選挙法で決めれば良い、民法の成年と同じなくても良いという見方です。

 

でもこの見方、微妙なんです。

 

平成26年6月2日、参議院の憲法審査会(議事録)では

 

仁比聡平君 ちょっと別の角度から両大臣の御見解を伺います。
それぞれの制度が立法趣旨が違う、理論的に一致する必要はないということで法務省が強くおっしゃり続けてきたわけですけれども、そうすると、憲法十五条三項に言われる「成年者による普通選挙」という言葉の意義ですね、「成年者による普通選挙」と字句上あれば、その成年年齢と公職選挙の年齢というのは一致しなければならないのかというような問題もあるかと思いますけれども、法務省はどうお考えなんでしょう

 

という仁比聡平議員(日本共産党)の質問に対して、

総務省自治行政局選挙部長は、早田弁護士と同様に、民法の成年と同じである必要はないとする見解を示しています。

しかし、法務省民事局長は

 

政府参考人(深山卓也君) ただいま、憲法十五条三項の「成年者による普通選挙を保障する。」というときの成年者と民法上の成年年齢の関係について御質問がありました。
これは、ある時期に法務省でも網羅的に憲法学説を調べたことがございますけれども、憲法学説上も、この成年者という概念と民法の成年というのは直接の関係はない、どちらかが下がったらどちらかが下がるという関係はないという考え方と、もう一つ、憲法が制定された当時既に、明治以来、日本の民法では成年は二十歳ということになっていた、民法上の成年年齢を考慮して民法上成年年齢に達している人を成年者という概念で表したという考え方、これがやはり有力な考え方、両者拮抗している状態でございます。
前者の考え方に立ちますと、これは立法趣旨も違っていて、言葉は一字違いだけれども、どちらかが下がったらどちらかが下がるというような論理的関係はないということになります。
後者の考え方、民法の成年に達した者を成年者と憲法は言っているという考え方に立ちますと、これは、先ほどの文言で「普通選挙を保障する。」といわゆる制度的保障をしている。憲法上保障されているのは、民法上成年に達した人には全員選挙権を与えなさいと。それよりも若い人たちに選挙権を与えることについては、この学説は挙げて、ほぼ例外を見たことはありませんけれども、憲法の趣旨からして、参政権を与えられる人を増やすことは趣旨に沿うことであって、憲法上保障されているのは二十歳、民法の成年年齢以上だけど、その下の例えば十八歳、十九歳の方に公職選挙法上の選挙権を与えることは憲法上は何も問題はない、むしろ望ましいというのがそちらの考え方に立ったときの説です。
したがって、私たちの整理、これは実は法制審議会で議論したときもそういう整理になりましたが、どちらの憲法上の理解に立っても、民法上の成年年齢が二十歳のままで公職選挙法上の選挙権の年齢が十八に下がるということは憲法上の問題は生じない、憲法違反にはならないということでございます。

 

民法の年齢と一致するとしないと、二つの考え方が拮抗している状態にあるけれども、一致するとする学説では「普通選挙を保障する」と解釈するもの以外をほぼ見たことがないので、いずれにしても未成年者に選挙権を与えても憲法違反にはならないであろうという趣意の答えをしているのです。

 

それでは問題がないのかというと、民事局長がいう

 

民法の成年に達した者を成年者と憲法は言っているという考え方に立ちますと、これは、先ほどの文言で「普通選挙を保障する。」といわゆる制度的保障をしている

 

これ。つまり、

  1. 民法の成年と同一であるかいなか
  2. 「成年者による普通選挙を保障する」を「成年者普通選挙を保障する」と読み替える解釈をとるか

この2つは、全く繋がっていません。

 

「1ならば当然2である」というような関係がないのです。当然のことながら「民法の成年と同一である」かつ「成年者による普通選挙を保障する」という解釈も成立するわけで、それが憲法学界に観察されないのは、検討の不足や偶然、系統(派閥)によるもの考えざるを得ないわけです。

 

 

「による」なんだってば

少し国会の議事録から離れると、民法の成年年齢引き下げは慎重であるべきとする日弁連の「民法の成年年齢引き下げの是非についての意見書」では次のようにあります。

 

憲法15条3項の「成年者」と民法の成年年齢が一致すべきもの であるか否かについては,憲法の解釈論上学説の一致をみていない上,仮に 両者が一致するとの立場に立ったとしても,憲法は,成年者による普通選挙 を保障しているだけであって,法律によって未成年者に選挙権を付与する選挙制度を否定するものではない。

 

繰り返しますが、「に」ではなく「による」なんです。

 

法制審議会民法成年年齢部会の第一回議事録

佐藤幹事 お答えいたします。皆さん御承知のとおり,憲法第15条第3項で,公務員の選挙につきましては,成年者による普通選挙を保障するという規定がございます。今の木村委員の御質問は,ここでいいます成年者による普通選挙というところの成年が,民法上の成年と同じであるかという御質問だというふうに承知しました。この問題につきましては,当方でもちろん憲法の解釈ということも絡むものではございますが,憲法の基本書等を調べてみましたところ,憲法第15条第3項でいう成年者の意味について,これが民法の成年を指すかということを明確に記載した文献自体がそれほど多くなくて,明示的に憲法第15条第3項の成年者が民法の成年者であると記載した文献はございますが,むしろそう書いてある文献自体が少数ではないかというふうには考えております。
憲法第15条第3項の意義につきまして,言及のある文献によりますと,憲法学の学説では民法の成年年齢とは必ずしも一致すべきではないというものから,民法の成年年齢と一致するというものまで,バラエティーがあるようでございます。ただ,民法の成年年齢より低く選挙年齢を定めるということ,例えば民法の成年年齢を20歳のままにして,公職選挙法の選挙年齢を18歳にするということは,選挙権を広く保障するといった憲法の趣旨からしますと,当然に許容されるべきであるという点についての学説は多くて,この点は異論がないようでございますので,必ずしも一致しなければならないということではないように思っております。

これが第十四回になると

憲法は,第15条第3項で「公務員の選挙については,成年者による普通選挙を保障する」と規定しておりまして,成年者に対して選挙権を保障しております。しかし,それ以外の者に選挙権を与えることまでは禁じておらず,理論的には,選挙年齢と民法の成年年齢は必ずしも一致する必要はないということで部会の意見が一致したことは中間報告書でも同様でございました。

 

繰り返しますが、「に」ではなく「による」です。

 

注目してもらいたいのは、第一回の「選挙権を広く保障するといった憲法の趣旨」や第十四回の「それ以外の者に選挙権を与えることまでは禁じておらず」という部分です。

 

改めて憲法がどのように規定しているかを見てみましょう。

 

第十五条  公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。
○2  すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。
○3  公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する。
○4  すべて選挙における投票の秘密は、これを侵してはならない。選挙人は、その選択に関し公的にも私的にも責任を問はれない。

 

こうしてみると、「による」を無視できないことが分かると思います。

 

成年者による普通選挙を保障しているのは第三項ですが、第一項に「国民固有」という部分があります。「国民の権利」ではなく、「国民固有の権利」なのは、外国人の選挙権を認めていない、禁じているからです。(最高裁判所平成5年行ツ163号参照)

 

第15条の各項は、単に国民に権利を与える規定というよりも、主権者である国民と公務員との関係、公務員の権能を認めるにあたっての条件、公務員の正当性のようなものを規定しているのです。

 

つまり、法制審部会第一回の「選挙権を広く保障するといった憲法の趣旨」とは違って、ある部分では制限するものでもあると考えることができるわけです。

 

 

民法と違っていていい?

それでは、もう一つの解釈のように、民法の成年と違ってもかまわないのでしょうか?

 

普通選挙は、もともと一定年齢以上の者に財産や収入・納税額といった経済的属性によって差別することなく、選挙権を認めるものです。従って、公職選挙法で決めてよい一定年齢以上であれば、「公務員の選挙については、普通選挙を保障する」で済むはずです。

 

補足すると、大衆選挙という訳の方が分かりやすいと思いますが、普通選挙が要求しているのは納税額等の経済的な属性による差別をしないということだけですから、女性に選挙権がない、男子普通選挙というものも歴史の教科書で見たことがあると思います。

 

 

さて、当然、憲法が下位の法律である民法の定義を具体的に参照することはできません。しかし、わざわざ「成年者」と規定しているのは、それを参照しているからと考えるのが妥当ではないでしょうか。

 

 

シンプルに言うと、

もし民法の成年を参照していないのなら、「成年者」って書く意味ないじゃん?

ってことです。

 

もちろん、行為能力の取得を免許制するなどして、民法に成年が規定されていない状態も考えられます。そうなると参照することはできなくなるわけですが、今の民法には規定があります。

 

また、成年被後見人の選挙権について争われた裁判で、東京地裁が違憲判断をし、高裁で和解が成立、平成25年の法改正により成年被後見人の選挙権が認められるといったことがありました。

 

行為能力を制限されている成年被後見人の選挙権は、つい最近まで制限されていたのです。もちろん憲法第15条第3項の「成年者」は行為能力を制限されているかいないかを問題としていませんが、民法上の行為能力と選挙権が関連するものと考えられていたことを示すものと言えると思います。

 

 

イイカゲンでいいの?

いずれの議事録等を見ても、国の統治機構に係わることなのに、それほど突っ込んだやり取りがなく、イイカゲンな印象を受けます。条文そのものを精読して検討することをしていないのです。

 

学校で「裁判所には違憲立法審査権がある」と教わったと思いますが、裁判所は法律が作られたときには違憲立法審査をしません。例えば、その法律によって損害を受けたという人が国に対して賠償請求訴訟を起こしたときなどに、初めて憲法に適合するかしないかの判断をします。

 

一方で、そのような訴訟がなくても違憲立法審査を行うようにするべきではないかという議論もあります。裁判所は憲法判断にあたって学界の見解も参考にはしますが、それのみで判断することはないでしょう。もし、法律が作られたときに違憲立法審査をしていたら、18歳選挙権はどのように判断されたでしょうか?

 

 

追記(2016/8/13)

新憲法施行の前後には、様々な法律が整備・整理されました。そうした法律の一つである公職選挙法の制定に際し、1949年7月1日の衆議院・選挙改正に関する特別委員会において、選挙法で何を定めるべきかを明らかにしようとするなかで、法制局第一部長の三浦義男が次のように答弁しています。

 

次に選挙権の年齢をどうするか。これは成年者による普通選挙ということが規定してございますので、この点もあるいは問題とならないだろうと考えている

 

つまり選挙権の年令については、一院制か二院制か、議員の任期をどうするかと同様に、今の憲法においては、選挙法の問題ではないとしているのです。

 

さらに翌回では、次のように答弁しています。

 

選挙人の年令を引上げまたは引下げるの可否でありますが、引下げることにつきましては憲法に成年者による普通選挙権等の関係がありまするので、これは憲法のわく内において考えた場合においては不可能であろうと考えております

 

この答弁では明確に、今の憲法のもとでは選挙権付与年齢の引下げは不可能であるという認識を示しています。もちろん当時の法制局による憲法の解釈が全て正しいとは言えません。しかし、公選法で決めるものだという立場は、少なからず公選法に規定があることを根拠にしているような説明をしているので、疑わしいものになると思います。

 

選挙権を国民固有の権利として、その付与する対象を国民に限定している第一項の規定もそうですが、これらの規定は国民主権の正当性や妥当性、信用を確保しようとするものと考えられると同時に、権力者や多数派が恣意的に付与の対象を拡大したり縮小したりしないようにするものであると考えることができます。

参政権を拡大する方向であれば問題ないという主張も弁護士会の方にはあるようですが、裁判所は外国人参政権については認められないという判断を示しています。

 

 

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