参議院の再定義

先の参議院通常選挙に関する投票価値の不平等を理由とした選挙無効訴訟の大法廷判決では、参議院の投票価値の格差が衆議院に関するそれと比べて大きくても構わないとは言えないとする判断が示されました。

 

参議院の通常選挙は半数改選で、現状の定数も242議席と少ないために1回の選挙で選挙される議員は121人でしかありません。そのため、裁判所の要求を満たすだけでもかなり大がかりな制度変更、抜本的な改正が必要であるとされています。

 

違憲判断の可能性

衆議院選挙の投票価値は2014年の大法廷判決において二倍以内とする基準が示されており、参議院は抜本的な選挙制度の改正により、4倍以上ある投票価値の格差を2倍以内にすることが求められています。これをせずに2016年の通常選挙が行われた場合は、是正のための妥当な期間を超えていると判断され、違憲判決が出されることも想定しなければなりません。

 

また、その場合に選挙が無効とされる可能性についても、今回の判決で反対意見を付けた木内裁判官らが示したように、一部選挙区について無効として、それ以外は事情判決の法理より違憲の宣言に留めるという方法が採られることもあり得ると考えることができます。

 

参議院とは何か?

憲法は参議院について、国会議員を「正当に選挙された国会における代表者」とする前文や「両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する」と規定する43条、議員の資格について定めた第44条但し書きなどでも、衆参を区別してはいません。

 

もちろん、地域の代表や業界の代表であるとも規定していません。それどころか、例えば議席を業界に割り振って、その代表者としたときには「すべて公務員は、全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない」とする第15条第2項の規定に反してしまうおそれもあります。

 

憲法における衆参の違いは衆議院が持つ総理大臣指名選挙・予算・条約承認の優越と内閣信任・不信任決議の効力、参議院が法律を否決したときの衆議院における特別多数による再可決、参議院が議決しなかったときの60日規定、衆議院が解散されているときの参議院による緊急集会、及び議員の任期・改選方式といった手続き等の違いのみです。

 

裁判所の判断は十分か?

大法廷判決は多数意見で次のように指摘しています。

 

参議院は衆議院とともに国権の最高機関として適切に民意を国政に反映する機関としての責務を負っていることは明らかであり,参議院議員の選挙であること自体から,直ちに投票価値の平等の要請が後退してよいと解すべき理由は見いだし難い。

 

一方で、厳格な投票価値の平等を求めない理由を次のように説明しています。

 

憲法は,国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させるために選挙制度をどのような制度にするかの決定を国会の裁量に委ねているのであるから,投票価値の平等は,選挙制度の仕組みを決定する唯一,絶対の基準となるものではなく,国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものである。

それゆえ,国会が具体的に定めたところがその裁量権の行使として合理性を有するものである限り,それによって投票価値の平等が一定の限度で譲歩を求められることになっても,憲法に違反するとはいえない。

 

つまり、「国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させるために合理的であれば、投票価値の平等が一定の限度で譲歩を求められることになっても、憲法に違反するとはいえない」としているのです。しかし、より厳格な投票価値の平等を求めた鬼丸裁判官が指摘するように、少人口地域の住民が国会議員に意見を伝えることも難しくはない時代になっています。

 

職業を含めて各部面で多様化している現代では、地域単位の声というのは必ずしも民意の反映において特別に配慮するべき理由を持つものではありませんし、地域の声を聞く必要があるとするときには、実質的な審議を担っている委員会ごとに地方公聴会を開く方が合理的です。

 

参議院議員の選挙は小~中選挙区と比例代表(全国ブロック非拘束名簿式)の並立制で行われています。そのため、選挙区ごとに比例代表の投票に対して倍率を設定する方式を採れば、大法廷判決が求めている程度の投票価値の格差是正は達成し得ると考えられます。この方式を採ったときには、厳格な投票価値の平等を求めない理由として技術的な問題をあげることはできなくなります。

 

公正に民意を反映するには?

選挙制度について憲法が国会に裁量権を委ねている目的が「国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させる」ことであるとするなら、それを否定するものとなっている小選挙区の存在や政党に関する諸制度、定数を含むその他の諸事項についても考えなければなりません。

 

よく見られる参議院の改変案には、①連邦国家のように地域代表にする,②職業代表にする,③英国貴族院のように非公選にする(英国の貴族院は大半又は全部を公選にする方向で検討が行われています),④廃止する、などがあります。これらの案では憲法の変更が必要であることに加えて、その正当性に疑問が残ります。

 

国会各院の性質

現行の憲法が衆参について定めている手続き等の違いのなかで、特に注目するべき点は内閣との関係です。衆議院は、総理大臣指名選挙での優越と内閣信任・不信任決議により、内閣に対する強力な管理機能を持っています。また、内閣が提出する予算についても優越権を持っています。

 

そのことから、衆議院は立法府の一翼であると同時に、政令や省令の制定を含めて、行政府に対して国民の主権を行使する代理人としての性質が強いと言えます。しかし、逆に衆議院と行政府が結託したときには、行政権と立法権の分立が危うい状態になり、国民の主権が脅かされてしまうおそれもあります。

 

一方、参議院は、行政府との関係が薄く、行政府を国民の代表者が監督する議院内閣制で上記のリスクを回避するために十分機能を発揮し、立法権に対する国民の主権行使が適切に行われるようにするために重要な役割を担うことができます。

 

衆参のねじれと政党

衆参で多数派の政党が違う「ねじれ国会」では、議員の表決が党議拘束によって決められることで、立法府である国会の機能を損なわせてしまうことになります。また、米国の連邦議会では党議拘束をかけていませんが、それでも二大政党の党派対立が深刻になり、同様の問題が生じています。

 

国会に自然な形で民意が反映されていれば、国民のなかに深刻な党派対立が存在していない限りは国会の機能が損なわれるようなことにはならないはずです。そのためには、政党のフィルターによって偏向されることなく、公正に民意が反映される仕組みが必要になります。

 

段階的な選抜

今の衆議院と参議院は、両議院の対等を基本として、議員の歳費、公設秘書の数、文書通信交通滞在費や立法事務費まで、すべて同じ額・同じ数になっています。しかし、憲法には両議院の議員が受ける待遇の対等を求める規定はありません。

 

現行の待遇は、政党交付金を含めると議員一人あたり年間で1億円を超えています。これは国会議員を特別な人々にしてしまう原因の一つであると考えることができます。つまり、有権者がそれだけの待遇を受けるにふさわしい肩書き・経歴・背景を持つ人を選ぶようになり、結果として両議院が国民の代表者で組織されているとは言い難いものにしてしまうのです。

 

そこで参議院議員の待遇を引き下げ、定数を増やして、より公正に民意が反映されるようにする改正の選択肢が浮かんできます。そうすることで衆議院議員の候補者が、公正に民意が反映されている参議院から供給される(段階的に選抜される)ようになり、党派対立によって民意の統合が妨げられたり、衆議院と行政府が結託して権力の分立が損なわれたりする危険を抑止する効果を期待することができます。

 

再定義の具体案

参議院は半数改選なので、公正に民意を反映するためには、より多くの定数が必要になります。そこで、この案では参議院をより国民に近い議院として定義し、定数を3倍の726議席とした上で、新たに改選された議員から歳費を半減、公設秘書を一名、文書通信交通滞在費を三分の一にするなど、待遇を引き下げます。

242 726

また、政党助成法上の「政党の機能の重要性」は低下すると考えられるので、政党交付金を減らします。選挙制度は、厳格な投票価値の平等を図るために比例代表を残しながら、大半が中選挙区から選出されるようにします。

 

再定義なので、政党の内部では今の参議院は衆議院に統合されるものと考えて、今の参議院議員が新たな参議院に留まることを前提とせずに候補者の調整が行われるはずです。それに伴って、衆議院についても歳費の是正や選挙制度の改正が行われることが望まれます。

 

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